愛してもいいですか
……逃げるように行かなくてもいいじゃない。
私は会社の上層部だけじゃなく、若い社員たちとも仲良くなりたい。けれど平社員はそもそも“社長”という人間を威圧感の塊のように感じているのか、こうして怯み逃げてしまう。
元々私自身もにこやかな方ではないし、気も強い。それも影響しているのかもしれないけれど。
「はぁ……」
威厳を感じさせているということに、喜ぶべきか悲しむべきか……。ポン、と一階に着いたエレベーターに、小さく溜息をつきながら降りた。
その時、携帯をチェックしようとバッグからスマートフォンを取り出したものの、手が滑り床へ落下させてしまう。
「あっ!」
白いカバーのそれはカシャン、と音をたて床に落ち、その衝撃で廊下の隅へと滑るように行ってしまった。
急いで拾おうと早足で追いかけると、先にその携帯を拾う手。
「あ……」
それは私と同じくらいの年齢だろうか、二十代後半に見える男性。ハネた栗色の髪を左で分けた彼は細身の紺色のスーツを着ており、男の人にしては黒目がちな瞳と大きめの口が犬のようで格好良く、可愛らしい。
屈んだ体勢を戻し目の前に立てば、私より二十センチくらい高く、180センチはあるだろう身長をしていた。
その見た目に思わず一瞬目を奪われるとともに、あまり見た記憶のない人だと思った。