プリンセスは腕まくらがお好き

(急がなきゃ。雄治…待ってる)

雄治が待っている店はここから二駅だ。タクシーをひろい、乗り込む。

「セクハラ」は、この業界では日常茶飯事だ。
それを見越してか、売れている会社の女性営業はどこも揃いも揃って美人ばかりいる。
そして、稼いでいる女性は誰もがそれを上手く使っている。
わたしも、そのひとりだった。

(でも枕はしてない。)
(相手の気分を良くさせて、買わせる。それは営業の基本だもの。)

絶対に寝ない。それはわたしのポリシーというか、当たり前にそう思っている。
セクハラを上手くかわすのは仕事だが、枕は売春だ。
男だったらどれだけよかったか。
男だったら企画が良ければ受注、というシンプルな構造なのに、女であるがゆえにそこにセクハラが発生することがある。

「だったらそれを、上手く使うしかないでしょ……」

自分に言い聞かせるように、小さくつぶやいた。
来栖さんの指の感触がまだふとももに残っていた。
くらくらと頭の芯が溶けるのは、お酒のせいだろう。

タクシーの窓に、銀座の夜景が流れるように映る。

(いくら誕生日だからって、雄治が外食だなんて珍しいな)
(やっぱり、もしかして……)

あと2時間で、25歳だ。
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