プリンセスは腕まくらがお好き
おしおきはプレゼンの後で
「それでは、これよりデイリー製菓27年度春季プロモーション企画コンペディションを開催いたします」
30人ほどが入る広めの会議室の照明が暗くなる。
プロジェクターが灯され、大きなスライド画面にデイリー製菓のロゴが映しだされた。
周りを見渡すと、3社の広告代理店が出そろい、みな神妙な面持ちでプロジェクターを見つめていた。
(大丈夫。企画は完璧、準備も万端)
心の中でつぶやいて、一緒に企画書を作り上げたデザイナーの先輩と顔を見合わせて笑った。
来栖さんは、ロの字型になった席の向かいに座っていて、離れているため表情はあまり読めなかった。
彼の口添えと、完璧な企画があれば、受注は間違いない。
今日参加することができた3社は、
うちー…H.(エイチドット)社と、もともとデイリー製菓の大規模プロモーションを受けていた帝国プロモーション、そして、うちと同程度の規模の企画会社、ライラックだ。
帝プロの企画の方針は例年の事例から読めているが、ライラックは普段クライアントもあまりかぶらないため、予測がつかなかった。
右隣に座る、ライラックの営業マンを見る。
私の視線に気づいたのか、軽く会釈を返した。
パーマのかかったエアリーな茶髪に、グレーのスリムスーツ。
歳はあまり変わらないように見えるが、いかにも広告マン!といった感じの、軽そうな印象だ。
(いかんいかん、敵だからといって、意地悪になりすぎだぞ)
頭を振って、目の前のプレゼンに集中する。
帝プロの企画は、思った通り予定調和の安全策だ。
他社への乗り換えを懸念しながらも、大幅な軌道修正ができなかったのだろう。
(これなら、大丈夫)
ライラックのプレゼンがはじまり、聞きながらも次の自分の資料に目を落とす。
しかし、すぐに資料をチェックする手は止まった。
(なに―…この企画!)
ライラックの企画は、うちと詳細は違うものの使うメディアや、企画の方向性がとても似通っていた。
驚いて顔を上げると、先ほどの男がプレゼンを続けながら、わたしのほうを見て笑みを浮かべた。
(そんな……)
企画がかぶってしまうことは、まれにある。
しかしこれで困るのが……
(うちより、いい企画だ……!)
負けているのだ。
作り込みが深い。企画書のセンスもよく、すぐにでもスタートさせられそうな現実味もある。
頭が真っ白になる。先輩が心配そうに、わたしの背中をさすった。
(どうしよう……)
「以上です。ありがとうございました。
では……次のエイチドットさん、お願いします」
マイクを置くと、例の男は満足げに微笑んでこちらを向いた。