私と彼と――恋愛小説。
会社近くの駅で編集長へ連絡を入れる。迂闊に社内で話して〈カヲル〉の正体がバレれば、折角の約束が無駄になりかねない。


「どうした、加奈子。喫茶店に呼び出して話さないといけないぐらい〈カヲル〉アレなのか?」


ブラックの珈琲を口元に運びながら谷女史が問い掛ける。


「えっとですね。とにかく書いてくれるそうです…けど〈カヲル〉は男でした。しかも若い…男です」


生意気な、と付け足しそうになるが我慢する。


彼女は呆れるどころか幾分身体を乗り出してくる。


「ほぉ、それはまた興味深いアレだなぁ。で…?見た目はどうよ」


どうと言われ、あらためて佐久間を思い浮かべる。背丈は若干小柄かもしれない、170㎝程か?


顔は小さめで整っていた気がする。一番印象的だったのは目だ。なんと云うか、生命力に溢れていた。


「あー…悪くない感じかも」
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