私と彼と――恋愛小説。

「良し…久々に気合い入った。じゃあ、後でね！」


呆れる…それだけ告げると直ぐに携帯を取り出しすたすたと歩き去る。


可愛い男だと素直に思う。久しぶりの感じに心が軽くなりそうだ。


「加奈子顔が弛んでるぞ。気をつけろよ、あたし程度に気付かれるんじゃ隠し様がないぞ」


「えっ？そんな事は…」


「別に非難してるわけじゃないよ。ただ、副編としての立場もあるからね」


それっきり谷女史はPCに向かって顔を上げない。確かに浮かれていた。


社内恋愛では無いだけに、注意不足だ。実際、佐久間と私に関係があろうが、非難するものはいないだろう。


けれども、他の部員の手前もある。迂闊な態度を見せている時期な筈がない…


谷女史のデスクに軽く頭を下げて席に戻った。雑多な作業は幾らでもある。気を引き締めて仕事に戻った。


七時過ぎ、珍しく早めに会社を出た。部屋も片付けておきたい。夕食はどうしようか？佐久間は何時に来るだろうか？


そんな事ばかり考えている私がいる。それでも、それが嬉しくて仕方がない。