私と彼と――恋愛小説。
久しぶりに夕食でも作ろうと考える。相変わらず冷蔵庫は空のままだ。


地下鉄の駅を出て、一番近いスーパーへ駆け込んだ。食材を見つめながら佐久間の好みすら知らない事に気が付いた。


食事はしてくるかも知れないし、手料理も押し付けがましいかもと思ったり…それでも佐久間に何かしたいと思えた。


「へぇ…それで、加奈子さんは台所に立ってるわけだ。久しぶりに恋愛モードへ突入してるわけね」


偶々電話を掛けてきた恭子が愉快そうに笑っている。


「そうよ…悪い?」


「全然。むしろ良い傾向だよ、悪い相手だとは思わないし…未だに謎だらけだけどさ」


「まあ…ね」


「何か佐久間から聞いてないの?それだけ親しくなったなら聞けば良いのに」


「聞かない事にしたの、彼が話すまで」


「“彼”ね。まっ、良いんじゃない?知り過ぎる事は不幸の始まりだって諺もあるし」


「へぇ。聞いた事無いかも、それ」


「でしょ?今私が作ったんだもん」
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