私と彼と――恋愛小説。
「すいません…」


何故か勢いにつられて謝ってしまう。スタジオの端では、編集長と佐久間が真剣な表情で話をしている。


完全に誰もが仕事モードで、スタイリストらしい女性が黙って私を見つめている。


「さて、この中途半端な長さの髪を切らないとねぇ。こっちおいで」


もう私は黙って従うしかない雰囲気だ。大きな鏡の前で髪を切り揃えられる。自前のメイクはすっかりと落とされた。


「あんたねぇ、ちゃんと睡眠とってる?ビタミンも摂らないと肌がカサカサじゃない。いつ迄も若いと思っちゃダメだからね」


撮影に立ち会う事は年中の事だった。けれども自分が主役でプロのメイクの手にかかる事など考えてもいなかった。


心地良い手触りとリズムで肌の上に色彩が重ねられてゆく。


何時の間にか扉付近で佐久間がその光景を見つめていた。


誰も口を開かない。大きな筆が頬を撫でる、目元には細い筆が迷いなく左右に滑っている。


「どうかしら涼ちゃん。イメージ通り?」
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