私と彼と――恋愛小説。
二章
夜十時、意外に早めに店へと入った。どのみち帰宅は深夜のタクシーだろう。


個室のBARは、女だけで飲むには都合が良いスペースだった。腰が沈み込むほど柔らかいソファーに座り込むと、横になって眠りたくなる。


誘った恭子はまだ来ていない。仕事では時間きっちりな癖に、こうした席では案外ルーズなオンナだった。


今更そんな事で腹も立たない。仕事の用事があればそれが最優先、お互い様なのだ。


珍しく数分だけ遅れて恭子が部屋に入って来た。


「疲れた顔してんねぇ。佐伯が乗り込んで来たのがこたえたか?」


恭子の第一声はそんな話題だった、相変わらず早耳だ。


「嫌な話から振ってくるね。ネタ元は誰よ…」


「おたくの編集。今まで打ち合せしてたんだ。それよりさ〈カヲル〉捕まえたんだって?」


興味津々と云った感じで恭子が喰いついてくる。


「あー恭子。仕事の話はやめて酒が不味くなる」


「まあ、そりゃそうだけどさ。あんた打ち合せしよって言ってなかったっけ?」


不満そうに恭子が言う。このまま話題を振られたら余計な事まで喋りかねない。


「今日はパス…まだ正式に契約してないもん。そっからなら話す、あんたの口が固いのは知ってるけどさ」


「仕方ないね。まあ、そのうち会わせてよ――あの女興味ある。何だかしっくりこないのよね」
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