私と彼と――恋愛小説。

「しっくりこない？どう云う意味でさ」


恭子がニヤリと笑う。乗せられた気分、これだからライターは嫌いだ。こうして相手の興味を擽り会話を引き出す。


フリーでライターとして評価される、厳しい世界で生き抜くには理由があるのだ。


「話せるとこだけだよ。恭子には敵わない、杏奈が来るまでだからね」


結局そんな風に告げてしまう。佐久間との打ち合せが終わるまで迂闊な事は話せない。


「実は密かに読んでたんだよ、あの小説。ライターとしての興味だね、携帯の小説で読者が二十万人延べで一千万超える閲覧なんて凄いじゃない」


「まあね、偶々時流に乗ったんじゃない？」


「まっ、何が当たるかなんてわかんないのがネットなんだろうけどさ…私がしっくり来ないのは文章なんだよ。あんたはどう思ってた？」


「文章？それなりに素人クサくて妙にリアリティがあるって感じかな…」


「そこなんだよね…ワザとらしいんだよね。まるでプロが計算して素人っぽく書いてる印象があってさ。ねえ、加奈子本人に会ったんだよね？」