誘惑~初めての男は彼氏の父~
 ただ一つ言えるのは。


 何も知らなかった頃みたいに、純粋な気持ちのままで佑典のそばにいることは・・・できない。


 別れるにしても、どう理由を口にするべきか・・・。


 「和仁さんの記憶から、私を消去なんてできないですよね」


 「死ぬまで無理だと思う」


 「・・・」


 私がこの世から消えるしか、解決策はないのでは? という極論が頭の中を支配する。


 「まさか・・・。変なこと考えていないよね」


 私の死への憧憬は、和仁さんに見抜かれていた。


 「死んだって、根本的な解決にはならないよ。残された者たちがそれからも、長くてつらい苦しみの道を歩み続けることを余儀なくされる」


 そういえば和仁さんの元妻は、自殺ともいわれる交通事故で急逝したのだった。


 それは和仁さんと佑典の関係に、ずっと影を残し続けている。


 「・・・卒業までに答えを出すことにしない? ゆっくり時間をかけて」


 私には他の解決策を生み出すことは、到底不可能だった。
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