誘惑~初めての男は彼氏の父~

冬の函館

***


 「ふーん。僕が真夜中に無言電話を、ね・・・」


 次の日の夜。


 和仁さんと電話連絡を取った際、それとなく昨夜の無言電話に言及してみた。


 「今朝佑典にも訊かれたよ。夜中に電話かけてこなかったか、って」


 私の言葉に対し、和仁さんは苦笑いを含んだ声で答える。


 「・・・何て答えたんですか」


 「もちろん無罪を証明したよ。昨夜僕は一人寂しく、零時前には寝ちゃったから」


 無言電話は深夜一時くらいだったと思う。


 それに和仁さんの声は、嘘をついているようには聞こえない。


 「第一むなしいと思わない? お楽しみの最中に無言電話をして邪魔するなんて」


 和仁さんは笑い出した。


 「・・・邪魔したい、って思わないですか」


 「え?」


 「私が佑典に会ってるのを知ってて・・・。邪魔しようって思わないですか?」


 「もちろん、愉快なものではないけれど」


 和仁さんはあっさり答えた。


 「でもまさか、二人のいる場所に乱入なんてできないし。それこそ余裕のない年長者をアピールするようで恥ずかしい」


 口調はあくまで余裕。


 「ま、今は理恵が佑典と会うのは、止むを得ないと思う。その分次に僕と会う時には、とことん尽くしてもらうから」
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