誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「次会えるのは、いつになるでしょうか」


 「今すぐ会いたい?」


 「・・・」


 ストレートに欲望を口にするのは憚られて、私は口をつぐんでしまった。


 「冗談だよ。今佑典は二階の自室にいる。これから出かけるのも、もう遅いしね」


 来月末が卒業式。


 卒業して程なく、佑典は新学期目指して赴任先である東南アジア某国の首都へ向けて旅立つ。


 その前に、今月半ばから。


 準備と住む家の下見などを兼ねて、一度現地に赴くことになっている。


 「和仁さんは、同行しないんですか」


 「一応訊いたんだけど、固辞された。今時の親ならみんな、一度はついていくんだろうけどね」


 佑典は何から何まで、一人で準備を進めている。


 今回は慌しいので私は一緒には行かないけれど、五月の連休には現地を訪れることを約束している。


 「もうすぐ・・・。佑典は長期間不在になるね」


 和仁さんに言われるまでもない。


 卒業前の一時期、赴任後の準備のため長く家を空ける佑典。


 その間好きなだけ和仁さんに会える・・・という悪魔の囁き。


 そして佑典は帰国して間もなく、卒業式。


 北海道にも春の訪れが感じられるようになる頃、大学は卒業式を迎える。


 今はまだ雪深い冬。
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