誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「おはよう、理恵」


 電話の向こうから、優しい声が響いてくる。


 「おはようございます」


 「もう起きていた?」


 「はい。二度寝しようと思ったんですが、眠れなくて」


 時刻は間もなく正午。


 「おはよう」というより「こんにちわ」と挨拶すべき時間帯かもしれない。


 「佑典と、夕べはずっと一緒だったんだろ?」


 「…」


 「まあそれはいいとして。今日は予定はないんだったっけ?」


 「はい」


 「これから食事しない? 今、出張先から札幌駅に帰ってきたところなんだ」


 電話の向こうから、札幌駅の改札口付近のアナウンス音と、雑踏のざわめきが聞こえてくる。


 今日は佑典に会えない。


 一人憂鬱な気持ちを抱え続ける重さに耐えかねて、私は和仁さんに救いを求めた。
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