誘惑~初めての男は彼氏の父~
 和仁さんは札幌駅近くの駐車場に、出張中車を預けていた。


 その車を回収して、寮の近くまで私を迎えに来てくれた。


 車を走らせ、郊外のパスタ屋さんでランチセット。


 和仁さんは数日間、オホーツク海沿岸に出かけていて、そこで流氷の写真などを撮影してきたらしい。


 「まだ流氷あるんですか」


 「その年の気候や風向きにもよるんだけど、今年はまだ大丈夫。昼間は沖合いに遠ざかるから、観光砕氷船でかなり沖まで出向いたよ」


 業務用とは別に、携帯電話で撮影した画像を数枚見せてくれた。


 「鷲が氷の上で休んでいたから、撮影のためにデッキに佇んでたら近くにカップルがいて、散々いちゃついた後キスし始めた」


 「それは・・・。災難というかご愁傷様というか」


 「他人のいちゃつく場面なんか、見たくもないからね。今度理恵も一緒に行こう。流氷見たことある?」


 「いえ、一度も」


 「寒いし一人じゃ寂しいから、次回は理恵も一緒に。砕氷船は間もなく今期の営業を終えるから、また来年にでも」


 「来年・・・」


 来年の今頃。


 私は佑典の元へ、海外に降り立っているのだろうか。


 常夏の地へ。


 そう考えると切なくなる。
< 399 / 433 >

この作品をシェア

pagetop