誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「あと佑典がいなくなった後、家のことをやってくれる人もいてくれたら」


 私の髪に指を絡めながら、そんなことを口にする。


 「だったら家政婦を雇えばいいんじゃないですか」


 「知らない人を家に入れるよりも、僕の仕事や家のことも手伝ってくれる人が、いつもそばにいてくれたほうが」


 「それって私のことですか」


 「そう」


 パーカーのファスナーに手が伸びる。


 「・・・無理です」


 私は椅子から立ち上がり、和仁さんの腕から逃れた。


 「なぜ」


 「留守中に勝手に上がり込むのはちょっと・・・」


 いくら佑典がこの春から、そう簡単に戻って来れない距離に旅立ってしまうとはいえ。


 留守中にここに入り浸ることに対して、私は後ろめたさを感じた。


 「ならば・・・業務補助のアルバイトとしてはどう? 一応僕は、個人経営者つまり社長の肩書きもあるから」


 和仁さんはフリーの写真家で、業務は自らが社長を務める会社で受け付けている。


 会社とはいえ実質和仁さんの個人事務所で、定期的に経理担当者や会計事務所の人が出入りしているので、出納関係は委任している。


 連絡は携帯電話で可能なので、事務員を留守番させておかなくても事足りている。
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