誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「ね。春からはもっと近くで、僕を支えて」


 「少し考えさせてください」


 即答はできない。


 佑典の留守中に家に上がり込むことは、やはりためらわれる。


 どんなに理由付けしても、知られたら絶対にただではすまないし。


 隠しても友人知人親戚関係、どこかから情報が漏れて、佑典の耳に入るような気がした。


 「他人の迷惑になるようなことはしてはいけないって、子供の頃からくり返し教えられてきたのに。どうして理恵のことになると自制心が破壊されてしまうのだろう」


 私を腕の中に閉じ込めたまま、和仁さんはため息まじりにつぶやいた。


 「もしかしたら私の存在自体が、世の中全体の迷惑になっているのかもしれません」


 時々そんな気持ちに囚われるのも事実。


 もしも私がいなければ、この親子は平和に暮らせていたのかもしれないのだから。


 「・・・もうやめよう。こんな話」


 自分達を悲劇の主人公に仕立て上げて悲しみに浸るだけでは、結局何も解決しない。


 答えは出せない。


 「・・・夕食は、お寿司の出前を取ろうか。この近所に美味しいところがあるんだ。生もの大丈夫?」


 「はい。好きです」


 終わりのない迷路から抜け出すために、私たちは話を一時中断した。
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