誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「・・・ここからじゃ見えないな」


 和仁さんの部屋の窓は庭に面していて、玄関付近は見えない。


 ただし誰かが家の前にいるのは確実。


 人の気配ばかりか、何を喋っているかまでは分からないものの話し声も聞こえてくる。


 「ちょっと見てくる」


 服を着て、和仁さんは確認に出向こうとした。


 「理恵も万が一に備えて、服を着ておきなさい」


 出向く前に和仁さんは、裸のままシーツに包まっていた私の髪に触れた。


 「僕がこの部屋を出たら、すぐに鍵を閉めて。呼ぶまで絶対に開けちゃだめだよ。・・・佑典が勝手に僕の部屋に入ってくることは、掃除の時以外はないんだけど」


 ・・・万が一、気配を察知して乗り込んででも来たら?


 和仁さんは部屋を出て、玄関へと向かい廊下を歩き出した。


 私は言いつけを守り、ドアの鍵を閉めた。


 もしもの時に備えて、今まで愛し合っていた痕跡を全てかき消す。


 乱れたベッドは整え、何事もなかったかのように。


 もしも佑典がここに入ってきた場合も想定し、隠れ場所を模索した。


 クローゼットの中か、デスクの下か・・・。


 まず靴とバッグは物陰に隠す。


 「・・・」


 そして息を殺しながら、ドアの向こうの様子を探った。


 玄関までは距離があるので、はっきりとは聞こえてこないものの、静かな夜ゆえ物音はかなり響き渡る。
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