誘惑~初めての男は彼氏の父~
 和仁さんが慌てて振り返る。


 佑典に気づかれてしまったことを悟り、初めて表情に焦りの色が走る。


 私は逃げ隠れる気力もすっかり失せてしまい、その場に立ち尽くすだけ。


 「ごめんなさい。お邪魔しました・・・」


 混乱のあまり、意味不明な言葉をつぶやいて。


 すでに手にしていた靴とバッグと共に二人の間をすり抜け、玄関から飛び出した。


 門を出て、行くあてもなく走り出す。


 駅に向かったわけではない。


 行き先なんてどうでもいい、ただこの場から、現実から逃れたかっただけ。
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