誘惑~初めての男は彼氏の父~
 しばらく砂丘に囲まれた細い道をくねくねと走行した後、停車した。


 エンジン音は元々静かな車だったけど、エンジンを切ると完全に沈黙が訪れる。


 開けられた窓からは、波音が届き始めた。


 辺りに心地よく響いている。


 「・・・ここ一帯は、昼間は海水浴客などたくさんの人で賑わうんだけど、夜は静寂の世界なんだ」


 少しずつ上昇を続ける上弦の月が柔らかに海を照らし、波音だけが辺りに響き渡る。


 幻想的な世界。


 「夜間撮影キット持ってくればよかったよ。今持ってるカメラじゃ、この光景は収められない」


 和仁さんが急に動いたのでびくっとしたけれど、後部座席に積んであったカメラに腕を伸ばしただけだった。


 「カメラ、いつでも持ち歩いてるんですね」


 車上荒らしを防止するためか、先ほどファミレスの中にまで持って着ていたそのバッグの中には。


 コンパクトなデジタルカメラと、あまり大きくない一眼レフカメラが二個収められていた。
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