キミとネコとひなたぼっこと。~クールな彼の猫可愛がり方法~
リビングのドアの向こうからパタパタという音とともににゃおにゃおと甘えるように鳴くコタロウの声が聞こえてきた。
「っ!」
誰に見られたわけでもないのに、その音と声に私はびくっと身体を震えさせてしまって、それと同時にハッと我に返った。
私、なんて恥ずかしいことを……!
私は慌てて樹さんの背中に回していた腕を離す。
「あっ、コタが呼んで」
私は何も考えられない頭のまま、樹さんの腕の中から必死に身体を立たせてフラフラと抜け出し、コタロウのいるリビングに向かおうとするけど、後ろから腕を掴まれて引き止められる。
ハッと振り向くとそこには、私のことをじっと見つめる樹さんがいて。
私はそれ以上、動けなくなってしまった。
「……行くなよ」
「え?」
「……今日はコタロウじゃなくて、俺のことを構ってよ」
「ひゃ……っ!?」
樹さんはちゅっと私の頬に唇を落としたかと思えば、まるでコタロウを抱きかかえるように私を抱き上げた。
私は慌てて先生の首に掴まってしまうけど、突然のお姫様だっこというものに戸惑ってしまって、呆然といつもよりも近い距離にある樹さんの顔を見つめることしかできない。
これ、どういう状況なの……!?
「い、樹さ……っ」
慌てて樹さんの名前を呼ぶと、ふと樹さんの表情が緩んだ。
「……くくっ、そんな困ったような顔しなくても」
「!だ、だって……!こ、コタ呼んでるし……っ」
「ふ、だな。……今のは冗談だよ。ごめんな?」
樹さんはくすくすと笑って「お姫様だっこって、意外と簡単にできるもんだな」と言いながら、何事もなかったかのように、私の身体をゆっくりと下ろした。
そして、頭をぽんぽんと撫でてくれる。
その表情はいつもと同じで優しかった。
「コタロウのところ、行こっか」
「……」
樹さんがにこっと笑ってコタロウのいるリビングに入っていく後姿を私はただ見ることしかできなかった。
私の心に残ったのはよくわからない虚しさと……罪悪感だった。