彼のヒーローヴォイス
床に横たわった市原くんが辛そうだったので、私の膝を差出し、市原くんの頭をのせた。
そして、着ている衣裳が少しでも楽になるように、胸元のボタンを外した。
「ごめん、香坂…」
「そんなこと、気にしなくていいよ、それより、どこか痛いところあるの?」
見る限り、おなかのあたりをしきりに手で押さえてるし、体をくの字にして痛みをこらえてる。
次第に額には脂汗も吹き出してきてる。
大丈夫かな…。
そんなことを思うと、頭上から聞き覚えある声がきこえた。
「怜? おまえこんなところで何やってんだ?」
見上げると、少し眉間にシワを寄せた純一がいた。
と、同時に先生を連れてきた泉希も駆けつけ、市原くんの様子を見た先生はすぐさま持っていた携帯電話で救急車を呼んだ。
救急車…。ってことは…ロミオ…どうしよう…。
私の言葉が通じたのか、泉希も、かなり困惑した顔を私にむけた…。
けれど、数秒…。
また、私たちは同じことを思った。
「純一っ!!!」
「な、なんだっ?!」
私と泉希が純一に詰め寄って…
「「お願いっ! 力貸してっ!」」
救急車が到着するまでに、コトの説明をし、市原くんが着ていた衣裳を脱がせて、
純一を舞台袖まで連れていった。
「いい? 泉希がみんなにロミオが変わることを説明して、ロミオのセリフは削ってもらってる。
どうしても必要なセリフだけ、私がフォローする、
昨日、2人で練習したセリフはどうしても外したくないから、それは、今、私が言うから覚えて!」
「なんだかよくわかんねぇけど、お前の言うとおりに演ればいいんだろ?
ま、なんとかなるんじゃね?」
笑えるくらい緊張もなにもない純一。
すでに身長は私よりも20cm以上は高い。年下だなんてこれっぽちも思えないくらい。
頼もしい…。本当に私の幼なじみは憎いくらいカッコよすぎる…。
後半の幕が上がり、出番が来たロミオの衣裳を着た純一が舞台を駆け巡る。
前半とロミオ役が違うことを観客が気づいて、一瞬ざわついたが、それもすぐにおさまり、
観客皆が、純一の演技に釘付けになっていた。
昨日、私と練習した場面のセリフも、一字一句間違えずに演じきった。
幕が閉まり、一瞬静まり返った体育館が、再び割れんばかりの拍手と歓声。
幕の内側の中央に部長の泉希が立ち、カーテンコールに応える。
みんなお辞儀して。と身振りをして
頭を下げた状態で幕が上がり、拍手に応えた。