恋ごころトルク


 しばらく走ると、おなじみの青い看板。バイクショップ・ミナセが見えてきた。あたし、一体何回来てるんだろう。

「初めて入るんだよね。ドキドキするー」

 千里さん、楽しそうだ。あたしも最初はそうだったな……なんて、思い出して懐かしんでも仕方ないんだけど。

 躊躇する。入るのに勇気がいる。でも、あたしが光太郎さんとどうなろうと、千里さんには関係が無い。お昼ご飯を食べに来ただけなんだから。

「あっちだね。行こうー」

「あ、はい」

 自転車のスタンドを立てるのに手間取ってしまった。教習終わって力尽きてるし、風邪気味なのもあるな……。

 カフェスペースへ向かう。階段を上って、前と同じだ。最初は1人で。そこで光太郎さんと会った。2回目はタケさんと誠太郎さん3人で。サーモンサンドの味が分からなかった。次もまたサーモンサンドを食べようと思ったんだ……。

「なに食べよう。真白ちゃんここでなに食べたの?」

「あたし、サンド食べましたよ。チキンサンドとかサーモンサンド」

「セットだって。迷っちゃうね」

「あたしはサーモンサンドを食べるって決めてます」

「まじでー」

 カフェボードを見ながら「オススメ!」っていう文字に惹かれながら、カフェのドアを開ける女子2人。

「いらっしゃいませー」

 あの母娘スタッフが迎えてくれる。あのスタッフさん、実際は本当の親子ではないと思うんだけど。変わらない。違うのは、あたしの気持ちだけ。ミナセもカフェも、千里さんもいつも通りなのに。

「あそこ座ろうか」

 ヘルメットの入ったリュックをあちこちにガンガンぶつけながら、窓際のテーブルへ向かった。ああ、タケさんと誠太郎さんと来た時、ここだったな……。そんなに広くないんだから、どこに座ろうと同じ。こう気分が沈んでしまってると、楽しくない。嫌だな……。

 さっきまで、お腹が空いていたはずなのに、食べたくなくなってきた。面倒臭い性格だな、あたし。

「あたし、チキンサンドにしよっかなー」

 千里さんが、メニューを見ながら楽しそうにしている。あたしは……決めていたからサーモンサンドにするけど、なんか、お茶だけで良くなってきた。

「あたしサーモン……」

「頼もう。すみませーん、注文お願いします」

 娘スタッフが来たので、注文をして、教習のことをああでもないこうでもないと話しながら待った。話していると、気が紛れる。せっかく食事をしに来てるんだから、少しでも楽しく食べないと。

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