恋ごころトルク

「……んふっ!!」

 お……おも……!!

「バイクは、真っ直ぐに立てると力を入れなくても自然と立ちますから」

 なにそれあたし全力だし肛門も凄い引き締めて、腹にも力を入れています!

「す、すたんど……」

「はいガンバッテ」

 先生他人事……! あたしはもう全力でバイクを真っ直ぐに立て(たつもり)右の腰に当ててバランスを取り、左足でスタンドを払うという、なにかのストレッチ運動なんですかみたいな動きをした。とりあえず「サイドスタンドを払ってバイクを立てる」という作業クリア。

「ハァハァ……」

「じゃあ次、センタースタンド。うまく体重移動させて。やってみましょう」

 立ち仕事だし、自転車通勤だし、わりと体力はある方だと思うんだけど、体力とバランス感覚と、あとなに、カン? そういうのは違うんだね……ちょっと……。

「ふんっ!!」

 センタースタンドに足をかけ、バイクを後ろ、後ろに……! 後ろにいいいい!!

「もう一息~」
「くぅーー!!」

 見るに見かねた先生は、あたしの反対側でハンドルを持ち、手伝ってくれた。グイン。バイクがセンタースタンドで立つ。はぁ……ただ立てるだけなのに、こんなに手こずるなんて。先が思いやられる。

「ちょっとね、勢いつけてやってみると良いんですよ~」

「はぁ……」

 そう簡単に言うけどねぇ先生ー……。

「今度、バイク倒しますからね。起こすのやってみましょうか」

「は、ハイ」

 来た。なんかネット上で調べてみたところ、引き起こしにはとてもコツが必要だと。普通にやったら起こせるわけが無い。二輪教習生が最初にぶち当たる壁だと。最初どころか、サイドスタンド立てたり払ったりも一苦労ですけれどね。

 先生がゆっくりとバイクを倒す。

「エンジンガードっていうんだけどね、これがあるのでこのバイクはべったり倒れないようにはなってる。足が挟まれたりするんでね、付いてるんですよ。ちょっと、起こしてみてください」

 こ、これもいきなりなんですか。鬼か。あたしはバイクに近付き、ハンドルを掴む。そして、ぐっと力を入れた。

「ふ……くっ……!!」

「そうそう、腕の力だけじゃ起こせないんですよ。腰とか足をバイクに付けて、下半身の力で起こすんですよ」

 それ起こす前に教えてよ。一息ついて、あたしは立ち上がり、手首を回し、再びバイクに向かってしゃがむ。シートに腰を付けて、グリップを握り、足に力を入れバイクを押すようにした。

「こ、こし!」

「そうそう」

「うっ……くううう……ふんっ……!!」

「起きない?」

 起きない、びくともしない。ちくしょう、ちくしょおおおおお。重いよおおおお。

「ううぉ……」

 どこかの血管がブチブチいきそうだ。無理だ。びくともしない。なんで。




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