きらいだったはずなのに!

「今日土曜日ですよ? 桐島さんの曜日感覚、どこにいっちゃったんですか?」


「ばーか。昨日渡そうと思ってた夏休み期間中の指導計画書忘れてたから、今日持ってきただけ。月曜までに見ておいて」


 ニシシ、と小ばかにしたように笑うあたしに、桐島さんは一枚のプリントを手渡してきたので、それを両手で受け取った。


「なあんだ。間違えて来たんだと思って、からかう気満々だったのに」


「アホか。おまえと違って俺がそんなミスするわけない」


「ひっど!」


 バカにされているのに、こんな軽口でさえ楽しいなと思う。


 ……そうだよね。恋って、こんな感じだった。


 なんでもない会話が楽しくて、会えると嬉しくて。


 次会えるのはいつかなって考えて、ふとしたときにその人の顔が思い浮かぶ。


 ちょっとのことでドキドキしたりして。


 悠斗に似ているからきらいだと、いままであたしの心にはストッパーがかかっていたんだと思う。


 けれどこうして今日悠斗と話して、聞きたかったことを知れて、あたしの中からはもうあの頃のトラウマが消えていた。


 さっき告白されたばかりなのに、悠斗に悪いとは思う、けれど。


 ……あたしは、きっと桐島さんが好きなんだ。


 
< 140 / 276 >

この作品をシェア

pagetop