おかあさんになりたい。 ~天使がくれたタカラモノ~
空っぽの世界~流産手術~
私の一番苦手なものは「注射」だった。


チクッと痛いだけの注射だけど、それまで健康だった私は健康診断さえあまり受けてこなかった。
だから注射もする機会はほとんどない。



「痛いのが一番苦手なの!」
「注射なんて大嫌い!」
「出産ってすごく痛いんでしょ?コワイな」



いつもそう言って、痛みから逃げてきた。



でもね、
全然痛くなんかなかった。

手術なんて、痛そうなことだけど。
痛くなんてなかったんだよ。



体は…ね。




流産手術は、はるちゃんがくれた未来に訪れる出産の「予行練習」だったのかな?



「出産は痛くないよ、恐くないよ!」

そう言って用意してくれたのかな?




心配性な私に似て、忘れ物をとりに帰るついでに用意してくれたの?






もう恐いことなんかない。
出産も、注射も、それ以外の痛みも。
痛いことなんか何もない。



ただひとつ耐えられないものは、



心の痛み。

自分の一部になっていたかけがえのないあなたたちを失ったことは耐えられない地獄のような痛みだった。
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