おかあさんになりたい。 ~天使がくれたタカラモノ~
2階の部屋に通されると、疲れと辛さで倒れこむ。



明るい色で統一された幸せの余韻が残る部屋。
来年、私たちもここで赤ちゃんの産声を聞き、幸せに包まれるはずだった部屋。



さすが産院。

隣の部屋では、赤ちゃんの誕生を喜ぶ声。
すれ違うのは出産を終えたばかりの人や、その家族ばかり。
ガラスごしには新生児が幸せな寝顔を浮かべているのが見えてトイレにいくたび、胸を刺す。



ここで赤ちゃんと引き離されるのを待たなければならないのは拷問のようだった。




明日は麻酔で寝ている間に、手術が終わる。
痛いことはもうない。


少しだけ気楽になれた。
体はもうつらいことはないから。


やっと少し落ち着いた気分で、点滴やらナースコールやら、初めての説明をうける。




「明日休めるように電話してくる。」



陽も病院に泊まってくれて、手術の間もいてくれるらしい。



初めてのことだらけ。

本当は出産するとき初めてが良かったけど、これで出産の時は混乱しなくてすむね。



鈍い鈍痛の中で赤ちゃんとの最後の食事をとる。

これから朝までは絶食状態になる。


本当に本当の最後の食事。

可愛いお花の、かたちに切ってある野菜を、お腹の赤ちゃんと可愛いねって喜びながら食べる。
涙の味がした。









明けて欲しくない。
朝にならないで欲しい。



叶わない願いを抱えたまま、窓から陽の光がもれはじめた。



「山本さん。行きましょうか。」


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