レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
動き始める事態
 たぶん、これは自分のわがままと意地しかないのであろう。エリザベスは自分に問いかけてみた。
 
 ——あなたは、このまま引き下がっていられる?

 答えはすぐに出てきた。否、だ。

 自分の考えが間違っているであろうこともわかっている。おそらく、何も知らないふりをして目を閉じ、耳を塞いで、やり過ごせばいい。

 それでは嫌だ、真実を知りたい。大陸で暮らしていた頃、納得のいかないことがあればどこまでも手を伸ばして真実を掴もうとした。
 そうしなければ、自分の身を守ることさえ危うかったから。

 でも、今は事情が違う。下手に動くよりやり過ごす方がはるかに賢い対処のしかただろう。それは、エリザベス自身もよくわかっているのだ。

 ——それでも、これ以上は他の人たちを巻き込まないようにしなければ。

 自分の行動で、ダスティやロイを巻き込んでしまった。同じ過ちを繰り返すことだけはできない。

 社交上の付き合いは、エリザベスの大事な仕事の一つでもある。
 次に何が流行するのだろう。農作物は、順調に育つのだろうか。ゴシップの中から真実を拾い上げるのにも、最低限の付き合いだけは欠かすことはできなかった。

 そんなわけで、明け方近くになってようやく眠りについた朝、エリザベスは、マギーに揺さぶられて眠い目をこじ開けることになった。

 マギーは、心配そうな顔をしてエリザベスをのぞきこんでいる。

「何かあったのですか? リズお嬢さん」
「何もないわ」
「顔色がよろしくないですよ?」
「寝不足でしょうね。昨日はつい話し込んでしまって——戻ってきたの、ついさっきだもの」

 壁にかけられた時計を確認すれば、ベッドに入ってからまだ四時間しかたっていない。枕を抱えて倒れ込みたい衝動をおさえつけて、エリザベスは起きあがる。

「……動けない。着替えを出したらコーヒー持ってきてくれる?」

 マギーが側の椅子の上にベージュをベースに、薄いピンクの小花を散らしたワンピースとその他の着替えを置く。
 それから部屋を出てコーヒーを取りに階下へと向かうのを見送ってから、エリザベスはごそごそとベッドから這いだした。

 鏡を見てみれば、たしかに顔色はよろしくない。あくびをしながらレースの襟元を直し、結った髪にピンクのリボンを飾ることに決める。

「リズお嬢さん、コーヒーをどうぞ」
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