神様のおもちゃ箱
『約束だったんだよ。

エンゼルマークが当たったら、私にちょうだいねって、アイツいつも言ってからさ。

こつこつコンビ二行ってはチョコボール買ってよ、やっと溜まったから別れの餞別にと思ったのよ。


だけどもう俺はあいつに会う資格はなかったし、渡せないなら渡せないでいい…くらいの気持ちでいたから、お前に頼んだ。

これであいつの手に渡ればすげぇなって思ってくらいだよ。


ま、でも悪かったよ。くだらない事に巻き込んでよ』



あまりに井伏が井伏らしくなくて、いや、今までの俺の中の井伏の方が間違ってたんだ。


何だか急に目頭が熱くなった。


いい人だ。

いい人なんだ、この人は。


二人の別れにもきっと、俺が踏み込めない何かがあったんだろう。

大人の二人の事情が。


両目を手で覆い、しゃがみ込んだ。


「何で由紀子さんのこと手放したんですか?」

「……」

「由紀子さん、すごく泣いてました。きっと俺と離れても、あんな顔はしてくれない」

「……お前?」


そうだよな。

驚くよなぁそりゃあ、まさか俺が由紀子さんを好きになるなんて。


「俺、苦しいです……どうしたらいいのか、全然分かんなくて……。大人になりたいのに。

由紀子さんの事、守れる男になりたいのに」


そう言うと、井伏が少し黙る。


『好きなのか?あいつのこと』

「……」

『そうか…それでなんだ、お前。

まさか大学辞めて働こうとか考えてんじゃねぇだろうな』


どきっとした。

井伏には、すべて見抜かれてる。



「だったら、何なんですか……」

『勘違いしてんじゃねぇぞ。

先走ったからって大人になれるわけじゃねぇ。大学辞めて、働いて、由紀子を幸せにするって言うのは簡単だ。でも、それがお前のするべき事か?

そんなお前に、由紀子が着いてくると思うか?』



ぐっと拳を握り締めた。

正しい事をきっぱりと言い宛てられて、俺は言葉を失くした。



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