その声を聞き、身体中の血液が沸騰したのではと思うほどの勢いで顔面に集中するのがわかった。

 今、いちばん会いたくないひと。でも、もっとも会いたかった、

(先輩……)

「俺、傘忘れてきたんだ。そこまで入れてってよ」

 固まったまま振り返ることの出来ない環の横に並んだ濱名は、そう言うや否や骨っぽい右腕を伸ばしクリーム色の傘を奪っていく。

 ひと通り少ない歩行者道路を駅に向かってまっすぐ歩く。

 それなりの大きさはあるとはいえ、ふたりで使うには幾分窮屈な傘の中、近づきすぎると聞こえてしまうのではと心配になる鼓動を気にするあまり離れていく環の身体を

「くっついてないと濡れるだろ?」

肩を抱き、半身にくっつけるように彼が触れる。

 触れられた箇所から熱を帯びたように肌が粟立った。

 傘なら学内の生協で売っているのに。

 どうして彼は今、わたしと同じ傘の中にいるのだろう。

「待たせてごめんな」
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