黙ったまま足を進める濱名が口を開いたのは、大通りを1本入った路地に踏み入れたときだった。

「えっ、そんなっ。わたしこそ困らせてしまってすみませんでした」

 謝罪が出るとは思ってもみなかった環は、慌てて首を振る。

 彼ではない。謝らなければならないのは、忙しくなることをわかっていながら心の暴走を止められなかったこちらのほう。

 いつも晴れ晴れとした表情を見せてくれる彼に曇った顔をさせてしまったのはわたしなのだから。

 縮こまっている環の隣で、

「困ってなんかない」

彼はやや乱暴にそう呟いた。

 今までに聞いたことのない口調にどきりとする。でも、発せられたことばは怒っているものとは違うその落差に、目を瞠る。
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