空から落ちてくる筋の軌跡が見えるくらい雨は降っているのに、彼の声が聞こえた瞬間、周囲の音が一気に遮断された。

 いつしかふたりは向かい合って立ち止まっていた。

「これから忙しくなるのはわかってるんだ。会えないことで寂しい思いをさせるのもわかってる。うん、って頷くのは簡単だけど、そのことで環を束縛するのを躊躇っただけだったんだ」

 よどみなく出てきた己の下の名前に心臓がまたしても跳ね上がる。

 いや、それだけじゃない。この展開は、まさか。

「こんな俺でよければ、つきあってほしい」

 思いも寄らない返答に張りつめていた緊張の糸がぷつんと切れた。

 ここが雨の降る屋外でなければ、へなへなと座り込んでいただろう。

 ぽかん、としたまま彼を見つめることしか出来ない環を追い立てるように、彼の話はここで終わらない。
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