容疑者はヒトリ。
孝子は洋子がやったように、もう一度
サヤカの部屋のドアを叩いた。
『サヤカちゃん?許してちょうだい、部屋、あけるわよ?』
その孝子の声は、サヤカが部屋の中で何らかの事件に巻き込まれていることを案ずるかの様に聴こえた。
隣で、洋子の鼓動は高鳴っていった。
孝子は、数多くの鍵のなかから、サヤカの部屋のものを選びゆっくりと鍵穴にさした。
『…お邪魔します。』
おそるおそる開けたドアから見える、サヤカの部屋。
家賃は安いアパートだ。部屋は1つしかない。
だがキッチンはあるし、トイレと風呂もしっかりついているのでサヤカは気に入っていた。
そこに、サヤカの姿は無かった。
テーブルの上には携帯電話。
『なーんだ…やっぱり私たちの早とちりだったのね。』
安堵する洋子と孝子だったが
次の瞬間、洋子が異変に気づいた。
『なに…この臭い』
部屋は嗅いだことのない異臭であふれていた。
『お風呂からだわ。』
なにげなく風呂の扉を開けた孝子の身体は一瞬にして硬直した。
『ひっ』短い悲鳴をあげた孝子は
それ以上何も言わなかった。
洋子の鼓動は、最高潮に達していた。
固まってしまった孝子の背中越しに風呂場を覗いた。
そこには、頭から血を流して倒れているサヤカがいた。