今さら恋なんて…



「……連れ、でも彼氏でもありませんけどね…」

あたしはため息混じりに呟くと、熱々のブラックコーヒーをすする。


嫌な酸っぱさもなく、深いコクが広がる美味しいコーヒーだ…。


「…そう、なんですね」

あまりに冷静なあたしがおかしいのか、彼は少し笑いながらそう言った。


「ええ。…お騒がせして申し訳ありませんでした」

口当たりのいいカップをソーサーに戻しながら、あたしはそう詫びた。


「いえ。お気遣いありがとうございます」


「こんなに静かなカフェなんだから、せめて空気読んで欲しかったわ…」


カフェインを補給して目が覚めたあたしが思わずぼそっ、と呟くと、

「あの…わたしの目が曇っていなければ…先ほど、プロポーズされていましたよ、ね…?」

と、ウェイターの彼は首を傾げた。


「…ええ。見間違いでも聞き間違いでもないですよ」

あたしは遠い目をして、しれっ、とそう呟いた。




< 10 / 479 >

この作品をシェア

pagetop