ゆとり社長を教育せよ。


わ。千影さんがそんな飲み方するとこ初めて見た。

私にプロポーズを断られたことがそんなに彼の心を傷つけたんだって思うと、ちょっとだけ優越感に浸る自分がいる。

でも……なんか、目が据わってきてませんか?



「……美也ちゃん」

「はい」

「正直さ。きみのこと、すっごい好みだった」

「……あ、ありがとうございます」



口調もいきなり軽くなったし。いつもの紳士な千影さんは?



「だからさ……最後に、思い出作りしたいなーなんて」

「思い出……づくり?」



何を小学生みたいなことを……と怪訝に思っていると、千影さんの手にぐっと腰を引き寄せられた。

驚いて目を見開く私に、彼は見たことのない妖しげな笑みを浮かべて言う。


「一回だけでいいから」


――ぞくっと、背筋に寒気が走って、一瞬のうちに肌が粟立った。

一回って……つまり、一回やらせろって意味よね、これ……

何が思い出作りよ! きみのこと好みだったから最後に寝ようよって、そんな口説き文句に落ちる女がいるもんですか!



「あ、あの……千影さん。私、このあと用があって」

「……嘘。さっきはこのあとも暇って言ってただろ」



ひーん。小一時間前の正直な私のバカやろー!

どうする?どうすればこの場を逃げ切れる?


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