ゆとり社長を教育せよ。
「……美也ちゃん、どこがいい? 僕の家? 君の家? 我慢できないなら、ここのトイレとかでも僕は構わないよ?」
我慢できないのはおまえだろーがっ!
トイレでなんてあり得ない!
マレーシアって名前のラブホの方がまだよかったっつーの!
心の中では激しく千影さんに突っこんでいたけど、相手は大の男。
あんまり神経を逆撫でして乱暴されても困るからと、私は必死に笑顔を作る。
「と、と、とりあえず外に出ましょう、ねっ?」
「……わかった。美也ちゃんがそう言うなら」
仕方なく、という風に頷いてくれた千影さん。
でも、その声はすでに上擦っていて、まだ危機を避けられたとは言い難い。
案の定、地下にあったお店を出て外に出ると、少し歩いたところで私は暗い路地裏へと引っ張り込まれてしまった。
視界の悪いその場所でも、千影さんの目は熱に浮かされてぎらついているのがわかった。
「美也ちゃん……」
やばい、キスされる――!
もうなすすべがなく、目をぎゅっと閉じたときだった。
「――お巡りさん! こっちです! 男が嫌がる女性を無理矢理に!」
どこかで聞いたことのある、甘ったれた声が近くで聞こえて、千影さんが舌打ちをした。
そして彼は私の身体を荒々しく壁に押し付けると、そのまま路地裏の奥へと逃げるように去っていった。
た、助かった……
ずるずると、服が汚れるのも気にせずその場に座り込む私。
怖かった……とんだ紳士だった、あの男。
見かけとか、ITとかSEとかの文字の羅列に目が眩んで、彼の裏にあった本性を見抜けなかった自分が情けなくて悔しい。
路地裏のアスファルトに落とした私の視界が、涙で滲んだ。