ゆとり社長を教育せよ。
首を傾げて霧生くんを見つめると、目尻に皺を寄せて微笑んだ彼が言う。
「高梨、今夜空いてる? こないだメシ行けなかったから、今日は金曜だしどうかなーと思って」
私は気づいたら、反射的にこう言っていた。
「…………行くっ!」
正直、ひとりの部屋で社長の電話を待つのは精神的に疲れそうで嫌だったのよね。
霧生くんと楽しくご飯食べて、それからお酒も飲んじゃおうかな。
そしたらきっと、社長からの電話だってかるーく受け流せる!
かなり乗り気で返事をした私にふっと笑い声をもらすと、私が肩から下げていたバッグをさりげなく取って自分の手に持つ霧生くん。
「よーし。何食いたい?」
「お鍋! あとお酒!」
「おおー、いいね。寒いもんなぁ、最近」
そうして意気揚々と会社を出た私たち。
やっぱり同期のノリっていい! ゆとり世代じゃないって素晴らしい!
なんてことを実感しながら、ふたりで入ったのは見覚えのある居酒屋さん。
壁一面に乱雑に貼られたメニューを眺めながら通されたテーブル席に着き、向かい側でスーツのジャケットを脱ぐ霧生くんに言う。
「懐かしいねー、ここ」
「同期みんなでここ来たのは入社直後だったから、もう八年前? いやー、若かったなあんときは」
「うん、若かった」
「ったく、ホント馬鹿みたいに飲みすぎたよな。……一杯目、なんにする? ビール?」
ドリンクメニューを差し出しながら、霧生くんが私に聞く。
飲みすぎてあの時の二の舞になるのはまずいけど、私だってもう三十一。
もう若い頃みたいに自分の限界がわからないわけじゃないから、今日はとことん飲んでいいよね?
あとで社長から電話がきたときに強気でいたいし。
そもそも明日のことは考えたくないんだもの。