ゆとり社長を教育せよ。
「先手?」
なんのことを言っているのかよくわからなくて、グラスに口をつけながら霧生くんを見つめる。
すると今まで椅子に背をもたれさせていた彼がテーブルに肘をつき、私との距離を縮めた状態で言った。
「――俺と付き合ってくれない?」
「げぇほっ!」
唐突過ぎる発言に、飲んでいたジントニックが気管に入ってむせた。
付き合うって……そういう意味のつきあう、よね?
なんで? 霧生くん、彼女いたんじゃ……
「動揺しすぎだって。そんなに意外だった?」
苦笑しながらおしぼりを差し出してくれる彼。私はそれを受け取って口元を押さえながらぼそぼそと言う。
「だって……あ、あの時は、彼女いたじゃない」
「高梨もいただろ、彼氏」
「私は、とっくに別れたわよ……」
「俺も同じ。……てか、高梨とのことを正直に白状したらフラれた」
フラれたなんて言いながら、霧生くんは明るい様子で笑っている。
あのときのことを彼女に正直に言っちゃうところが彼らしいと言えば彼らしいけど……
「その彼女に未練がないのは、たぶんあの時から高梨のこと気になってたからなんだと思う。
それに確信を持ったのは、つい最近……あの試食会の日に久しぶりに高梨と話してからだけどな」