ゆとり社長を教育せよ。
「全然、気づかなかった……」
私がぽつりと呟くと、霧生くんは穏やかに微笑んで言う。
「返事は今すぐじゃなくていいけど、前向きに検討してくれないか?」
……霧生くんのことは、好きだ。人として、すごく。
仕事も誰かさんと違ってまじめに取り組んでるし、会話をしていても、誰かさんと話してる時みたいにイラついたりしない。
きっと、付き合ったら楽しいし、私を大切にしてくれるんだろうってこともわかる。
だったら、真剣に考えてみても――――あ、ダメだ。
「ごめん……私、今、誰とも付き合えないの」
「……え?」
「社長との約束で……」
霧生くんがが怪訝そうに眉根を寄せる。
そりゃそうよね、いくら私が社長秘書だからって、そんな約束理不尽以外のなにものでもないし。
でも、あのゆとり王子はそれくらいの交換条件がないと真面目に働いてくれないんだもの……
「……らしくないな」
「え?」
今度は私が聞き返す番だった。
目の前の彼はひと口お酒を飲んでから、私を諭すように言う。
「そんな約束を丸飲みして言いなりになるなんて、高梨らしくないだろ。誰相手にだってハッキリ物を言える……そんな高梨だから、社長秘書にだってなれたんじゃねーの?」
「霧生くん……」
そう言われてみればそう、なのかも。
でもどうしてか最近、社長にあまり強く出れない。
こっちのペースばかり乱されて、気づけばいつも丸め込まれていて……