ゆとり社長を教育せよ。




あの時は春で、今より少しあたたかい夜。空にはぼんやりと丸い月が浮かんでいた。


「え? コレ霧生くんの彼女? 超かわいい! 結婚は?」

「まぁ、もう少し仕事に慣れたら、かなー。と。でも、最近ケンカ多いんだよな」


飲み会から帰る途中。

霧生くんとはたまたま帰り道が一緒だったから、スマホに映る彼女の写真を見ながら、彼をひやかしていたんだ。


「ケンカできるうちはまだいいよ。私なんてもう別れるまでのカウントダウン入ったって感じ。
あの人、絶対に何か隠してるのよね……浮気なんかするような人じゃないから、仕事のこととか」

「ふーん……」


あーあ、寂しいな。なんて、酔っぱらってその気持ちごまかそうとしたのが裏目に出て、余計にむなしくなっていた。

さらに、隣で優しく話を聞いてくれる男友達がいたのがまずかった。



「どっかで飲み直さない?」



このまま歩いても、もうお酒を飲むようなお店がないことはわかっていた。

きっと、彼の方もそれがわかっていてこう言ったんだ。



「……もうちょいで、俺んちだから」



どちらからともなく手を繋いで、飲み直そうって言ったはずなのにコンビニにも寄らずに、彼の家へまっしぐら。

玄関先でキスをして、あっという間にベッドにたどり着いて……

そして服を脱がされている途中で、お互い我に返った。


「……ゴメン、高梨、俺……」

「う、ううん。私も、ゴメン。部屋になんか上がったりして……」


そうしてぎこちなく服の乱れを直すと、二人向かい合って床に正座し、頭を下げた。

お互いに相手がいるのに、なにやってんのよって。

でも、一線を越えなかったことにすごくほっとしたことも覚えている。


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