ゆとり社長を教育せよ。
*
あの時は春で、今より少しあたたかい夜。空にはぼんやりと丸い月が浮かんでいた。
「え? コレ霧生くんの彼女? 超かわいい! 結婚は?」
「まぁ、もう少し仕事に慣れたら、かなー。と。でも、最近ケンカ多いんだよな」
飲み会から帰る途中。
霧生くんとはたまたま帰り道が一緒だったから、スマホに映る彼女の写真を見ながら、彼をひやかしていたんだ。
「ケンカできるうちはまだいいよ。私なんてもう別れるまでのカウントダウン入ったって感じ。
あの人、絶対に何か隠してるのよね……浮気なんかするような人じゃないから、仕事のこととか」
「ふーん……」
あーあ、寂しいな。なんて、酔っぱらってその気持ちごまかそうとしたのが裏目に出て、余計にむなしくなっていた。
さらに、隣で優しく話を聞いてくれる男友達がいたのがまずかった。
「どっかで飲み直さない?」
このまま歩いても、もうお酒を飲むようなお店がないことはわかっていた。
きっと、彼の方もそれがわかっていてこう言ったんだ。
「……もうちょいで、俺んちだから」
どちらからともなく手を繋いで、飲み直そうって言ったはずなのにコンビニにも寄らずに、彼の家へまっしぐら。
玄関先でキスをして、あっという間にベッドにたどり着いて……
そして服を脱がされている途中で、お互い我に返った。
「……ゴメン、高梨、俺……」
「う、ううん。私も、ゴメン。部屋になんか上がったりして……」
そうしてぎこちなく服の乱れを直すと、二人向かい合って床に正座し、頭を下げた。
お互いに相手がいるのに、なにやってんのよって。
でも、一線を越えなかったことにすごくほっとしたことも覚えている。