ゆとり社長を教育せよ。
「……食われるも何も、社長はからかわれただけです」
私はそう話しながら、駅がある方向へと歩き出す。
『からかわれた? ……よくわかんないけど、つまり無事なんですね?』
……まだ、切羽詰まったみたいな口調してる。
そんなに心配だったの……?
私のことが、その……好き、だから。
……って! なにこの乙女的思考! さっき霧生くんも言ってたけど、こんなの私らしくないってば。
「はい、無事です。なので、もう切ります」
『え……いや、こんな時間だし今から迎えに――』
「結構です」
トンッと指で画面を叩いて通話終了。
はぁぁ……疲れた。それにしてもおかしい。この心臓の疲労感。
この症状、アレに似てるけど。似てるけれども。
認めない。認めないわよ私は断じて!
そんなことを考えながら、カツカツと無駄にヒールをアスファルトに打ち付けて歩く私。
もしかしてちょっと変な人と化してる? そう思って立ち止まると、背後に誰かの気配を感じて振り返った。
でも、そこには誰の姿もない。
……気のせいだったのかな。
繁華街から離れてしまえば、駅のそばはわりと静かでちょっとさびれた商店街。
金曜の夜だっていうのにシャッターの閉まった店の多いその場所をちょっと気味悪く思いながら歩くこと数歩。
……やっぱり、後ろから私と同じ速度で歩く足音が聞こえる。
誰かつけてきてる……?
ぴたりと足を止めてもう一度振り返るけど、そこには夜の闇が広がっているだけ。
正体のわからない恐怖に、背筋にぞくっと、寒気が走った。