ゆとり社長を教育せよ。


早く駅に……! そう思って小走りになった瞬間、ピリリッとスマホが音を立てる。

縮みあがっていた心臓は過剰に飛び上がり、震えそうになる手でバッグからスマホを取り出す。

酔いなんかすっかり覚めてしまった。


さっきあんな切り方をしたから、また社長が掛けて来たんだと思いたい。

でも、直感でそうではないこともなんとなくわかっていた。


「非通知……」


ディスプレイに浮かんだ文字は、ある意味予想通り。

でも……こわい。出るのも、出ないのも。

数秒悩んで、けれど勇気を振り絞った私は、前者を選択した。



「……もしもし」



相手は何も言わない。

スマホを当ててない方の耳を撫でていく風の音だけが、いやに大きく聞こえる。


「誰……? なんとか言ってよ……」


それでも電話の向こうからは、うんともすんとも聞こえてこなかった。

無言電話ってやつ? ふざけないでよ……


しばらくするとプツッと電話は切れたけれど、得体のしれない不安は大きくなるばかりだった。


目指す駅までは、あとほんの数分歩けば着く。

だけど……


私は握りしめたスマホを見つめ、素早く指を滑らせた。

そして彼の名前をタップすると、その声が耳に届くのを待つ。


自分の秘書のピンチなんだから、早く出なさい!

――なんて、こわいくせに上から目線で考えながら。


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