ゆとり社長を教育せよ。
派手な車が目の前に停まって、そのドアが開く音が聞こえるまで、私は道の端っこで膝を抱えていた。
あれから会社帰りのサラリーマンとか、必要以上にいちゃつくカップルとか、通行人がぽつりぽつりと私の目の前を通り過ぎて行ったから、恐怖はある程度薄れていた。
だけど……
「大丈夫ですか? 高梨さ――」
「遅いわよ! ばかっ!」
駆け寄ってきた社長に向かって、さっきまで感じていた心細さをぶつけるように、声を荒げてしまった私。
今回ばかりは、彼に何の落ち度もないのに……ほっとしたら、なんだかどうしようもなく、彼に怒りをぶつけたくなったんだ。
「……ごめんなさい、マッハで来たんですけど」
「どこがマッハなのよ……しかも何で私のキライな“ソレ”で来たの?」
恐縮するゆとりくんの背後にある車を指さして、私は言った。
屋根がないと髪が爆発するからいやだって、前に説明した筈なのに。
「あ、これで来たのにはちゃんと理由があります。やっぱヒロインのピンチに駆けつけるなら、オープンカーの方かなって」
にっこりと、まるでその思い付きが素晴らしいものであるかのように語る社長を見て思う。
……やっぱり馬鹿だ、このひと。
でも、その馬鹿さ加減に今日は救われてるみたい。
さっきまであんなに怖かったのに、今はもう平気だもの。
それと……どうやら霧生くんの読みは当たっているのかもしれない。
どうしたって頼りがいがあるようには見えない、年下の、いつもイライラさせられているはずの相手に。
“助けて”って、咄嗟に思ってしまうなんて――――。