ゆとり社長を教育せよ。
冗談だったらいいんだけど、どうやら私は本気みたい。
もうこんな年齢だから、慌てたりうろたえたりすることはないけど……
「さん。にー……」
こんな時に感じる胸のドキドキは、いくつになっても変わらない。
目の前の人が欲しいって、私の中の私が心を激しくノックするの。
「いち」
顎を引き上げる社長の手。近づいてくる彼の甘い香水の香り。
「ん、っ……」
そうして強めに押し付けられた唇。そこから伝わる熱が、さっき自覚したばかりの気持ちを、どんどん加速させてく。
数秒間重なったあと、音を立てて離れていった唇。
息のかかる至近距離で私を愛しそうに見つめた社長が言う。
「……何で急に、そんな可愛くなっちゃったんですか」
「思い出したの」
「何を?」
「自分の気持ち認めたら、楽になるってこと」
「それって――」
私は一度目を伏せてから、彼の瞳をまっすぐに見つめた。
「まさかあなたみたいな人を好きになるとはね」
「――っ! 高梨さん!」
ぱっと瞳を輝かせた社長が、運転席から身を乗り出してぎゅうっと抱きついてきた。
ちょっと、痛いよ、もう……なんて思いながらも、迷惑だなんて思う自分はいなくて。
苦笑しながら自分も彼の背中に手を回すと、ものすごく満ち足りた気持ちになった。