調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜青き涙〜‡

その時が来たなら、許される。



忌み嫌われる存在だった。

母親

父親

祖父以外の家族は自分を皆疎ましく思っていた。
時折聞こえてくる物の声は心を癒すけれど。
その声を聴いていること自体に畏怖を感じる者達。
それらを感じるようになる頃、唯一自分を可愛がってくれた祖父は、何も言わずに家を出ていった。
肩身の狭い寂しく辛い日々が続いた。
やがて戦で村の者達や家族が死んだ。
これで解放されたと思った。
新しく住み着いた村では、この力を知らない者達が普通の人を見るように付き合ってくれる。
年を経る毎に強まり、確かになっていく力。
それに比例するように人を信じる事ができなくなった。
その人の大切に持っている物に触れれば、真実も嘘も全て知る事ができてしまったか
ら。
試しに、託宣だと言って伝えられる物の意志を人々に告げた。
次に会った時には、お礼だといって金品が渡された。
どんどん裕福になっていく生活。
愚かな人々を嘲りながら、富んでいく懐を見て笑いが込み上げた。
なぜもっと早くこの力をこうして利用しなかったのか。
過去の愚かな自分を笑った。
国中に広まった噂は、王の元にも届いていた。
王宮での生活。
贅沢な暮らし。
声を聴いて告げるだけで良い。
都合の悪い事は告げず、良い事だけを言えばいい。






そんな何不自由ない生活が続いていたある日、力ある物の声が聞こえてきた。

森の深い場所。

洞窟の中。

とても清浄な気を宿す声。
気づけば何日も聞こえるようになっていた。
そして、王は言った。
力を持った刀がないかと…。
在りかを教えるだけで良い。
それが叶えば、お前に一つ町を与えてやろう。

その言葉に飛びついた。






そしてこの事態。

人は愚かな生き物なのだ。
続けて多くの物が手に入れば、手に入らない物はないと感じてしまう。
大切な物が見えなくなる。
心も無くしてしまえるほどに。
欲する力は止まることはない。


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