調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜黒の希望〜‡

「地下に…
地下に氷室がある。
あそこなら、追いつかれても広い場所だから戦える」
「分かった」



階段を降りきり、少しした氷室の入り口で、先生を下ろす。
しっかりと造られた地下は、タイル敷きの床になっており、あまり服を汚す事も無い。

「先生。
大丈夫ですか?」
「ああ。
そんなに深くないよ…少し痛むがな」
「なぜあんな無茶を…?」
「…仇を取りたかったんじゃ。
妻と息子のな…。
ずっと探しておった。
対になる、あの刀に対抗できる刀を…」
「……」
「わしも、この一族の血を引いておるんじゃよ」
「っ……!」
「一族の女と子を成したが、愛することなどできなんだ。
唯一愛した妻は、外の人間じゃった…。
息子も生まれ、一族から離れて幸せに暮らしておったんじゃ。
じゃが、そう長くは続かなんだ…。
一族に見つかったわしらは、この屋敷に連れられ、妻を…。
目の前で…あの刀で刺されて死んだ…。
幼い息子もどこやらに幽閉されてしまった…」
「そしてあなたも殺されるところだった…」
「…っ!」

ゆっくりと階段を降りてきたのは、黒い服を着た長身の男。

「とうさんっ」
「逃げることしかでんのか…。
まったく…」

秦はそう呆れるように言い放った父親に、怒りが込み上げるのだろう。
今にも掴みかかりそうになっている。

「ふはは。
まったく芝居が上手くなったもんじゃな。
慎太郎。
息子に怪我をさせるのは、やり過ぎたんじゃないか?」
「???」
「混乱しとるのぉ秦君。
冷たい父親が憎かったじゃろ。
そんで真剣に腕を磨いた…。
優しく教えたんじゃ実践には使えんからの」
「どうゆう…?」
「お前さんが反発して、一族から出やすいように…。
そんでもって、自分の身くらい守れるように…。
あえて冷たく厳しい父親を演じてきたんじゃよ」
「っ何でっ…」
「…異端児と呼ばれて一族で一生道具として生きることはない。
一族にお前が見つかってしまった以上。
道具として育てなくてはならなかった。
だが、こんなくだらない一族に道具として仕えるのは私だけでいい…。
お前は好きに生きればいい…」
「……」



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