調導師 ~眠りし龍の嘆き~
‡〜認めぬ者〜‡

「龍牙刀の影響を受けていたとは言え、人を殺めたのは事実。
そして、その殺戮を止める事ができなかった。
それは、あなたがたの罪です。
償っていかなくてはなりません」
「だが、わしらは…」
「知らなかった事は言い訳にもなりません」
「…っ」
「気づいていなかったと言うことはないはず。
予感はあったはずでしょう」
「確かに…」

多くの者達が頷く。
多くの人々を殺めてしまった。
立ち会った者も少なくはないだろう。

「考え直していただかなくてはならない事もある。
もはや、保てる力は少ない。
生まれた子どもが力を持つ事も少なくなっているはず。
血を濃くし過ぎたのです。
長い間、門戸を閉ざし、正しい事も分からなくなってきている。
改めるべき時です。
…一族の未来の為に…」
「…血に……固執し過ぎたやもしれん…」
「確かに…だが……」

歯切れが悪い。
戸惑いが感じられる。

「長く続けてきたことをすぐに変える事は容易なことではないでしょう。
ですが、少しずつでも変えていかなければ…。
失くしてから後悔しても遅いでしょう?」
「……」

沈黙する。
長い時を掛けて築かれてきた慣習は、深く根付き固められてしまっている。
けれど、ほんの少しずつでも意識を変える事ができれば…。
今までと同じだけの時を掛ければあるいは…。

「ゆっくりとで良いのです。
少しずつ正していきましょう。
間違いを認めてください。
まだ間に合う。
次の代が平穏であるように…。
考えましょう」
「変革の時だとでも…」
「そうです。
一族が担った役目を一つ果たすことができたのです。
今からでも始めるべきでしょう?」
「一族の力はどうなるっ!」

そうだっと途端に怒鳴りだす。
野次を飛ばす。
愚かな考え。
目先の事しか途端に見えなくなる。
愚かな人の心。
腹が立つ。
力にしか興味がないのだ。
人の命など問題にしたりはしない。
投げ出したくなる。
こんな一族を救済しようなどと思った事が馬鹿馬鹿しい。



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