冬美の初恋
一時間後。

「本当に……すいませんでした」

「いいのよ、溝にハマっただけで、田んぼに被害はなかったしね」

「…はい」

そう言って、私はおばちゃんに背を向けた。

「あ、ちょっと待って。いいのあげる」

「?」

おばちゃんは玄関の小さな小箱から、包みを出した。

「………中、何ですか?」

「種。知り合いがくれたんだけどね、たくさんもらって有り余ってるからさ」

「………………いいんですか?」

包みを透かしてみると、小さな粒が2、3入っていた。

「うん。その種ね、ちゃんと育てると大切な仲間ができて、幸せになるんだって」


「へー…」

「自分で育ててもいいし、幸せになってほしい人にあげてもいいし」

「ありがとうございます!!」

もう一度、深くお辞儀をして扉を開けた。

「………お待たせ」

外には、顔中ガーゼと絆創膏だらけの雨が立っていた。

「………帰るか」

「うん」

ゆっくり、歩き出した。

「……ジャージ、洗って返すね」

「ん」
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