死が二人を分かつとも

「キ、キャキャキャキャ!」

“ソレ”が、飛び出して来た。

茂みがない森だから、ある程度見通せると踏んでいたのに、目の前に来るまで分からなかった。

例えるなら、野球ボール。
ピッチャーが投げる野球ボール、速度共にボールの小ささも相まって、大概の人はプロが投げるボールに反応出来ないだろう。

だからこそーー

「このっ!」

反応出来た彼は、私(凡人)とは違う感覚を持っていた。

彼が右足を引いたのと同時に、“ソレ”は飛びかかって来た。

喉元に飛びつく寸前、“タメ”(一拍)を持った斧が猛威となる。

寒気立つほどの鈍い音が、静寂に亀裂を入れる。

渾身の一撃を受けた“ソレ”は枯れ木にぶつかり、動くことはなかった。

「キキキキ!」

「キャキキキキ!」

続けざま、降り始めの雨のように、ポツポツ現れ、寒気を覚えさせるモノたちが姿を現す。

後から来た“ソレら”は、同じ轍を踏まなかった。一定の距離を保ち、私たちを威嚇している。

「あれが、“飛べない奴”……」

チロはコウモリと例えたけど、飛べない奴に至っては見たこともない生物だった。

色は白。大きさは私の膝まであるかないか。胴体がなく、人間で言う頭の部位から、直接二本の足が生えている。

毛が生えていない白さは、水死体のよう。
頭には獣の牙が生え揃う口だけで、目や耳は見当たらない。

「化け物……」

残骸にもそう言ったけど、化け物は化け物としか称せない。脅威となる正体不明の生物は、畏怖の対象なのだから。

「ま、待って下さい!こ、この人たちは、間違って地獄に来た人たちですから!」

懐の探り合いをし、牽制が続く中、チロが間に入った。

「えー、ええとー、食べたいのは分かりますが、間違った人たちを食べると神様怒るかと。き、聞いてます?つか、手前の話通じてます?あ、あー、あっちにー、食べ応えあるような死人さんいたんで、今すぐ行かなきゃ逃げちまいますよー!ねえ、聞いてますか!」

見当たらないだけで、音を聞き分ける器官はあるはず。けれども、言葉が通じるかはまた別の話だった。腹を空かした野犬に説得を試みたところで、こちらの要望が叶うはずもない。

裸足の白い足が、ペタペタと増えていく。

数える限り、六体はいた。
最初の一匹は時間経っても動かないことから、殺してしまったのだろう。

仲間の死を悲しむことなく、踏み台として、狩った者を食そうとしている。

「犬だな、本当に」

どこをどう見て、あれを犬と見たのか。
呟く弥代くんは、ブレザーのボタンに手をかけた。

彼の一挙一動に、“白い化け物”ーー弥代くん曰わくの“犬”は反応する。

「やめましょーって!ここは、手前に免じてっ。同じ住人じゃないですか!」

尚も説得を試みるチロに、一匹の“犬”が大口を開ける。

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