死が二人を分かつとも

「当たってないのに……」

今の一撃は、文字通りの一振りだ。

右から左に斧を振っただけなのに、“犬”は不自然な形で地面に激突し、悶絶している。

「そよ香、絶対にそこから動くなよ」

言葉を投げかけるほどの余裕を持った足が、大きく前に出る。

のた打ち回る一匹を蹴り飛ばして。

顔のない“犬”でも、ぎょっとしたの言葉が似合う反応。蹴り飛ばされた同種の的にならないよう、跳ねる。

「キ、キャキャ!」

牙のついた風が彼に襲いかかるも、やはり彼の一振りでその場にのた打ち回る。

「あの速度が見えるんすか、やっさんは……!」

端から見る私でさえも、チロと同じ意見だ。

視認出来ないから風と例えたのに、彼はごくごく単純な動きで“犬”を戦闘不能にさせていく。

「キ、カカカキャ!」

「そよ香さん!」

高みの見物が出来る立ち位置でないのを、私に向かってくる一匹で自覚した。

逃げる足も間に合わない。情けなく、目を瞑ってしまう怯えしかない私に。

「そよ香、ふせろ!」

聞こえた指示は『なんで』の言葉を返す暇もない。行動する理由を求めることなく、そうしろと体がーー足が動く。

半ば、転ぶような伏せ。膝から折り曲げたつもりでも、バランス考えずにしたものだから、勢い余って体が地面をこする。

痛みで更に瞼を固く閉じると、頭上から何かが“通った気配”があった。

目を開ける。
下がった視点を上に向ければ、弥代くんがいた。

ただ、数秒前の彼とは大きく違う点があった。

斧が、ない。

右手にあったはずの斧がなく、手ぶらでーー

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