愛を欲しがる優しい獣

「さて、お茶はどこだったかしら……」

香織さんが台所の戸棚をあちこち開けてまわるのを見かねて、レンジ横に置いてあった籠の中から紅茶の缶を取り出す。

「ここです」

「ありがとう。詳しいのね」

その後もカップがない、スプーンがない、砂糖がないと続いたので、結局お茶は自分で淹れた。

香織さんにも同じものを淹れてふたりで紅茶を飲んでいると、ふと視線を感じた。

「この間とは随分、感じが違うのね」

「この前は仕事用で……。いつもはこんな感じです」

「まあ、そうだったの」

香織さんは佐藤さんと同じ顔で微笑んだ。

(なんだかな……)

秘密を知る人が徐々に増えていって複雑な気持ちになる。

佐藤家の人の前では気を抜いているせいか、仕事用の姿を見られると逆に恥ずかしいのだ。

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